場面緘黙症
私達が話したり、考えたりする時、大抵言葉がその仲介をしてくれます。他人とコミュニケーションを取るとき、表情やしぐさ、身振りや手振りも有効な手段ですが、会話の中ではやはり言葉は重要なツールです。
言葉を上手に使えるか使えないかがコミュニケーションに与える影響は大きいですね。保育園の子どもたちを見ていると、自分の気持ちをはっきり伝えることができる子は、友達関係において優位に立っているように思います。子どもたちにはそれぞれ伝えたい思いがたくさんあるので、それを伝えられる子と伝えられない子に対して関わりの差がないようにしなくてはと思います。うまく伝えられない子の話にもしっかり耳を傾けて、聞いてもらった喜びや伝わる嬉しさをたくさん味わってほしいと思います。
20年以上前、勤めていた保育園に場面緘黙症のお子さんがいました。2歳児で入園し、一言もしゃべりませんでした。笑うと笑顔がとってもかわいい男の子で、その子の2つ上のお姉ちゃんがくすぐると、かわいい声を立てて笑っていました。いつかその子とおしゃべりができると思っていたのに、卒園するまでその願いはかないませんでした。
ある日散歩に行ったときに、その子の近所の方に会って、声を掛けられたそうですが、一言もしゃべらなかったので、その方がとても不思議そうにしていたという話を担任から聞きました。おうちで会った時は普通におしゃべりしていたからです。言葉は見えている氷山の一角なので、話せないのは、その下の見えない部分に様々な原因があるようです。でも、人間の心は複雑なので、それを明らかにして解決につなげるのは難しいようです。
当時、場面緘黙症のことを知らなかったので、どうすれば話してくれるようになるか、試行錯誤しました。しゃべらなくてはいけない状況をつくり、その子が困った顔をしていたことを思い出すと、申し訳ないことをしたと思います。無知は怖いです。
中学生になった時も、学校では一切しゃべらないことを人づてに聞きました。今はどうしているでしょう?オンライン研修の事例では、長い年月をかけて話せるようになった子の話を聞きました。焦ってはいけませんが、子どもが話すことを諦めないよう、周りの大人の細やかな対応が求められると思います。20年以上経ちましたが、Hくんに会って話がしたいです。
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