価値観
『価値観』は、生まれた家庭、学校、社会の中で作られていきます。人生の最初に出会う私達は、子ども達の『価値観』に大きな影響を与えるので、その責任の重さを自覚しなくてはいけないと思っています。
保育者の価値観が、子ども達にどれほど大きな影響を与えるか考えさせられた出来事がありました。
13年前、勤めていた社会福祉法人が公立保育所を民間委託し、私を含め6人の職員が移動しましたが、そこで働く公立の先生や子ども達との『価値観』の違いに戸惑いました。保護者の方も、子ども達も、移動してきた私たちの『価値観』が大きく違うので戸惑われたようです。
ある日、サッカーをしていた時のことです。年長児の男の子がゴールキーパーをしていたのですが、相手のゴールを止められずに得点が入ってしまいました。すると、他の子たちが、一斉にその男の子を責め立てたのです。男の子は泣き出しましたが、責め立てた子たちは全く気にする様子もありませんでした。行動がゆっくりなその男の子は、何かあればいつも一斉攻撃されていました。
移動して10カ月、年長組の子ども達の言動に頭を痛めていた時、移動する前の保育園の運動会を見に行きました。
開会式に走って入場しようとした時、先頭の年長児が転んでしまいました。勢いがついていた後ろの子ども達も一緒に倒れそうになったのですが、すぐに転んだ子に、「大丈夫?」「痛くなかった?」「ケガしてない?」と声を掛ける子もいれば、膝についた砂を払ってあげる子もいました。転んだ子は痛そうな顔をしながらもすぐに立ち上がり、引き締まった表情で走り出しました。
ほんの一瞬の出来事でしたが、その一瞬に日頃の保育(価値観)が表れているように思いました。友達を攻撃しても勝ちたいという思いと、転んだ友達をいたわる気持ち・・・同じ年長児の姿ですが、全く正反対の姿に、保育(者)の『価値観』が大きく影響していることを感じました。
早速、職員勉強会で、時間はかかっても、『友達を大切にする気持ちを育てよう』と話し合いました。開園して3,4年は『思いやりの気持ちを育てるには』がいつもテーマになりました。
だんだん『思いやりの気持ちを育てる』をテーマにしなくても良くなったのは、保育者の価値観が子ども達に伝わったからだと思います。
乳幼児期の教育は間違いなく重要なものです。でもその教育は何かができるようになることではなく、一生の土台となる『価値観』に関わるものではないかと思います。